2014/06/15

【私撰名馬物語#19】ランフォザドリーム

―夢に向かってただ走り続け、今や名繁殖牝馬に―


今日行われる中央重賞は二つ。東京のエプソムCと阪神のマーメイドSで、共にGⅢである。そのうち今回取り上げるのは後者の方だ。すっかり春のGⅠの中休み的重賞という評価が定着したレースだが、馬券的には中々面白そうで松若風馬・義英真の両新人騎手の健闘も期待されるところ。積極策を得意とする松若騎手と、単騎で逃がすと非常にしぶとい義騎手。欲を言えば二人の乗り馬が逆だったらさらに良かったなと思わなくも無いが、彼らの軽ハンデを利した激走に馬券的な望みを託すのも悪くは無いかも知れない。

今日ご紹介する名馬は1998年にそのマーメイドSを制したランフォザドリームである。元リーディングサイアーの父と重賞ウイナーの母から誕生した良血馬でありながらも、出世が遅れ古馬になってから花開いた彼女。ピークの期間は長くなかったが、鮮烈な活躍を見せた1頭であった。馬名の通り夢に向かってひた走り、引退後もささやかに話題を提供し続けている彼女の現役時代を、Webの大海に静かに浮かんでいるこの場にておさらいしたいと思う。

1994年生まれのランフォザドリームはメジロドーベルらと同じ世代に当たる。父はロベルト直仔で1993年のリーディングサイアーのリアルシャダイ。母は1991年のシンザン記念などを制したミルフォードスルーである。ミルフォードスルーはシアトルスルー産駒の本邦輸入種牡馬であるスルーザドラゴンの娘で、牝馬としてはかなり大柄な馬格を誇った。加えて1991年クラシック世代における牝馬5強の一角に数えられる馬であったが、娘同様にピークは短かった。ランフォザドリームのいとこには南関東の伝説的名牝にして名繁殖牝馬のロジータがおり、母系からは芝砂問わず活躍馬が多数産出されている。

ロジータと同様に新冠の高瀬牧場で誕生したランフォザドリームは、牧場の所有馬として栗東の田中耕太郎厩舎に所属し1996年11月の京都開催の3歳(旧馬齢表記)新馬戦でデビューした。彼女の性格は臆病だが、それに似つかわしくないような母譲りの大きな馬体に恵まれていた。芝1800mという条件で河内洋騎手を背に逃げを打った彼女であったが、直線でバテて8頭立ての7着に終わった。初勝利の舞台はその1週後に連闘で挑んだ折り返しの新馬戦で、マイルで見事な変わり身を見せ3馬身半差で快勝している。その後翌年2月~3月に500万下条件のダート戦を2戦したが結果を出せず、間も無く骨折を発症。順調さを欠いて牝馬三冠レースに挑むことすら無く、大事な時期を長期の休養に充てている。

1997年11月の京都開催。淀の500万下条件戦(ダート1800m)から夢へ向かって走る彼女の物語の第二章が始まった。復帰戦を武豊騎手の手綱に応えて逃げ切ると、月末のゴールデンサドルT(阪神芝1600m)では当時は笠松に所属していた川原正一騎手との急造コンビで勝ち星を挙げた。これで通算3勝目。やがて年が明けると京都の寿S(芝2000m)にペリエ騎手と共に出走したが、アラバンサに差されて2着までと言う結果だった。

年初の緒戦は自己条件で敗れたものの、この5歳のシーズンは彼女にとって充実期に他ならなかった。1月の末にはGⅢの京都牝馬特別に格上挑戦した。6年前の同重賞では母のミルフォードスルーが惜しくも2着に敗れ去っていた。その母の敵討ちとばかりに母と同じ河内騎手とのコンビで挑み、人気は三つ巴の2番手に支持されたが、3番手評価のビワハイジの逃げ脚に屈しやはり2着。親子二代の雪辱は果たせなかった。とは言えGⅢで連対したので、収得賞金が増えてこれでオープン入り。次走の中山牝馬Sに堂々と出走することが出来るようになった。その中山牝馬Sは大雨のため日曜日から月曜日に順延となり、雨の残った重馬場を味方につけたハンデ56kgのメジロランバダが制し、52kgのランフォザドリームは再び2着に終わった。以後3戦は牡馬に挑んだが、イマイチパンチに欠け全て馬券圏外に飛ぶ始末。このように実力は感じられたものの、なかなかオープンで凱歌を上げることが出来ない状態で出走したのが、6月のマーメイドSだった。

当時のマーメイドSは賞金別定戦で、ランフォザドリームはデビュー以来初めて55kgの斤量を背負った。重賞未勝利馬ながらも牝馬限定重賞での堅実さが評価されて1番人気となった彼女。差の無い2番人気には牡馬相手に好走を続けている同じく5歳牝馬のヴィクトリーバンクが推され、3番人気は6歳のメジロランバダだった。他にも4歳のエガオヲミセテが高橋亮騎手とのフレッシュなコンビで出てきていたり、プロモーション&エアリバティーのクイーンSワンツーコンビが名を連ねており、レベルは高くないにせよ多彩と言える面子だったようである。

そんなメンバーの中でランフォザドリームは見事に花を咲かせることに成功した。文字通り咲き乱れんとミスカサブランカが単騎で逃げを打ったが、ランフォザドリームは立ち遅れ気味のスタートからの二の脚で2番手に進出し、それを射程圏内に収めながら上手く折り合った。そのままの態勢で直線へ至ると、鞍上の河内騎手が一気にスパートし先頭に。ゴール前でヴィクトリーバンクが追撃を加えたが、3/4馬身及ばなかった。内容的には完勝であり、充実期において好位から押し切る自身の競馬が完成をみたように思える内容であった。

ランフォザドリームの充実ぶりはこれに留まらなかった。夏には北九州記念(この年は阪神芝2000mで施行)に出走し、雨が降って滑りやすい馬場に脚を取られながらも3着と実力を示した。1998年のシーズンはここまで大体月一のペースで出走し続け、掲示板を外したのはわずか1回であった。そして再び牡馬に挑んだ9月のGⅢ・朝日チャレンジC(阪神芝2000m)。前2走と全く同じ条件で彼女は躍った。パドックから気合十分なところを見せて好調ぶりをアピールすると、レースは彼女の独壇場と化した。歴戦の古牡馬たちが戦前の人気を集めランフォザドリームは4番手評価だったのだが、3番人気のダンディコマンドの逃げを難無く2番手で追走し4コーナーで先頭に立つと、直線でも末脚は全く鈍らずゴール前で2着のサンライズフラッグにつけた差は3馬身。こうして得意の条件で全く危なげないレースを見せたランフォザドリームは、11月のエリザベス女王杯での戴冠候補の1頭として名乗りを上げたのである。

1998年の古牝路線には2頭のスターホースが存在していた。1頭は前年の天皇賞馬にして年度代表馬のエアグルーヴ。そしてもう1頭が前年のオークスなどGⅠ3勝のメジロドーベルである。二強と言うものの、前者は牡馬とのレースで名を高めていたのに対し、後者はほぼ牝馬限定戦のみで実績を積み上げていたという事情もあり、世間の下馬評はもっぱらエアグルーヴを一段ほど上に見ていた。前年と同様に8月の札幌記念を完勝し、秋天に出て連覇を目指すことだろうと当初は見られていたエアグルーヴだが、「一度勝ったレースはもういいだろう」と言わんばかりに秋天を回避しエリザベス女王杯の方に出て来たのだからさあ大変。牝馬最高峰の舞台において2頭のスーパーホースの対戦が実現したのであった。とは言っても、エアグルーヴとメジロドーベルはそれまでも幾度となく矛を交えており、前年の有馬記念やこの年の産経大阪杯の内容を鑑みても前者の力が上であるという評価は動かなかったのだが…。

最強牝馬である彼女たちに挑むべく、ランフォザドリームは府中牝馬Sを叩いてエリザベス女王杯にやって来た。だが、そのステップレースで重馬場も影響して5着に敗れたこともあって、彼女に対する評価は単勝22.7倍の5番人気と高くは無い。1番人気には当然のようにエアグルーヴが推され、単勝のオッズはなんと1.4倍。もう1頭の主役足るメジロドーベルは4.6倍の2番人気に過ぎず、その他の馬は当年のオークス馬のエリモエクセルも含めて二強の飾りにしかならないと見られていた。

そんな不当とも言える低評価に、ランフォザドリームは反抗して見せた。最低人気のナギサが作り出した超スローペースを3番手で追走した彼女は、コーナーで外から2番手に進出し最内からやって来たメジロドーベルと対峙した。そこからは末脚勝負の追い比べに。この対決は展開によっては爆発しかねない困った気性と、それを燃料にした素晴らしい切れ味を身上にするメジロドーベルの方に分があった。何しろランフォザドリームはデビュー以来34秒台の脚を使ったことが無かったのだ。女王エアグルーヴも外からやって来るがコース取りの差が響き届きそうにない。結果、上がり33秒5の脚を使ったメジロドーベルに軍配が上がり、34秒フラットのランフォザドリームは2着まで。完敗とは言えど、3着のエアグルーヴに先着したのは評価を高める上で大きかった。このレース内容に「来年はランフォザドリームが牝馬路線の天下を取る」と夢を見た競馬ファンも、恐らくは少なからずいたことだろう。

だが、このGⅠでの激走を最後に彼女は急速に輝きを失っていったのであった。エリザベス女王杯の余力で出走したGⅡの阪神牝馬特別では好位から全く伸びず9着に敗れ、ダートに挑戦した翌年1月のTCK女王盃に至ってはブービー負けを喫してしまった。その後もコンスタントにレースに出走し続けたが結果は好転せず、1999年11月のエリザベス女王杯で最下位の18着に大敗したのが彼女のラストランとなった。前年と同様に4コーナーで2番手を守りながらも、直線で勢いよく逆噴射する姿は一抹の寂しさと明らかな力の衰えを感じさせるには十分であった。

引退後は故郷の高瀬牧場で繁殖牝馬となった。そして繁殖としての評判は現役時代のそれに匹敵するものである。初仔のフィーユドゥレーヴ(父サンデーサイレンス)が函館2歳Sを勝ち幸先の良いスタートを切ると、バゴとの仔であるオウケンサクラはフラワーCを制し桜花賞で2着に入る活躍を見せた。現役馬で期待できそうなのはヤマノウィザードだろう。ディープインパクトとの間に生まれた彼は、デビュー4戦目の青葉賞で3着に食い込み今後が有望視されている。彼の活躍次第では、ランフォザドリームの名声は不動のものとなろう。いとこのロジータのようなスーパーファミリーを築き上げる可能性すらある。一度は挫折しかけた彼女の"夢"は、引退から15年ほどを経た今も無限大に広がり続けているのだ。

ランフォザドリーム -RUN FOR THE DREAM-
牝 鹿毛 1994年生
父リアルシャダイ 母ミルフォードスルー 母父スルーザドラゴン
競走成績:中央24戦5勝 地方1戦0勝
主な勝ち鞍:朝日チャレンジC マーメイドS

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